論説

一触即発の中東情勢への対応

 米国は1月3日、イラン革命防衛隊司令官を無人機攻撃によって殺害した。イランはその報復措置として8日にイラク国内の米軍基地を攻撃。国際原油市場や金融市場には一気に動揺が広がり、株安と原油高が進んだ。イランが米軍施設に直接攻撃を加えたことで、全面戦争への警戒感は依然ぬぐえないものの、トランプ米大統領がイランの報復攻撃で米国人の死傷者が出なかったと明らかにしたうえで、「必ずしも軍事力を行使する必要はない」と述べたことから、全面戦争への危機はとりあえず回避されることとなった。しかし、両国関係の緊張の高まりは、世界の原油需給に対し大きな危機として横たわることは間違いなく、今後も両国関係の行く末が原油市場のリスクとして立ちはだかっていくだろう。
 国際原油価格指標の1つであるWTIは一時バレル65㌦を突破したが、トランプ米大統領の発言を受けて、59㌦台まで下落し、鎮静化の方向に向かった。しかし、両国の偶発的な衝突などを含めて、事態が今後悪化するようなことがあれば、70㌦を突破し、100㌦超の悪夢の再来も懸念される。いずれにしても原油価格が高値に張り付いた状態が長期化することは避けられそうにない。
 我が国には230日に上る石油備蓄があり、中東紛争が勃発したとしても即国内の石油製品供給が断たれてしまうことはないだろう。一方で、中東依存度の高さから我が国では、以前から調達先の分散化にも取り組んでいるが、経済性の問題や精製設備との相性などもあって、簡単に調達先、油種を変えることが困難な状況にある。政府と連携しながら資源外交をさらに強化し、産油国との関係強化に取り組んでいくことが重要であろう。加えて、中東地域の緊張感の緩和に向け、日本政府には関係各国と連携強化を図っていただきたい。
 こうした中、安倍総理は今月11~15日にサウジアラビアとUAE、オマーンの3ヵ国を歴訪。中東情勢の緊張緩和に向けて各国と意見交換を行うとともに、UAEアブダビ首長国との間で、日本の原油タンクを活用し行っている共同石油備蓄事業の継続と拡充で合意。石油危機時には優先供給が受けられるなど、日本のエネルギー安全保障を向上させる取り組みとして、その意義は大きいと言える。
 今後は石油危機時に備蓄原油等の放出を機動的に行う体制整備を、政府と石油業界との連携強化を通じて行っていくことが重要だ。