【2020 新年特集】 中国特集 SS網維持・強化への課題
ピーク時に比べおよそ半数にまで減少してしまったSS数。これ以上の減少は燃料の安定供給面からも絶対に避けなければならない。地震、台風、豪雨など自然災害が頻発、高齢化・過疎化に悩む自治体が増える現在だからこそ、SSの持つ拠点としての意義はより一層高まっている。本特集では、中国地方におけるSS過疎化の実情を再確認するとともに、地域住民のコミュニティや災害対応のための拠点など、燃料の供給という本来のSSとしての役割に加え、住民のニーズを捉え地域の「ハブ(中核)」として貢献しているSSや組織の活動を紹介する。
【岡山・野上石油】
住民交流の場として
岡山県でも山間地域の拠点として重要な役割を担うSSがある。野上石油(岡山県勝央町、野上和宏社長・出光昭シ系)は本社に隣接する広場にレンタルルームを設置し、コミュニケーションの場を提供している。会議やセミナー会場としてはもちろん趣味や語らいの場など様々な用途に利用してもらい、地域住民の集まる拠点となればとの考えから設置したという。
また自社独自で防災訓練も実施しており、災害時など、いざという時を想定した地域を守る活動にも熱心に取り組んでおり、エネルギー供給拠点としても災害対応力の強化を図っている。
同社は不安、不快など、様々な「不」から事業を通じてユーザーを解放することをモットーとして活動の展開に努める。地域の中学校から職場体験に生徒を受け入れたり、花火大会の日には広場に屋台を出して賑わいを創出するなど、地域にとっては欠かせない存在となっている。
【鳥取・日ノ丸産業】
閉鎖SSを防災拠点に
鳥取県では閉鎖したSSをコインランドリーに改装し、災害時には住民の安全確保のため、その施設を利用できるように地元の町と協定を結んだ組合員がいる。
日ノ丸産業(鳥取市、森下明男社長・JXTG系)では、閉鎖したSS跡に「コインランドリーてんとうむし賀露店」をオープンし、営業を開始した。
地域に密着した施設として、地域住民の利用を増やすため、施設を有効活用する手段はないかと考え、災害時には地域の拠点として利用してもらえるよう鳥取市賀露町自治会と協定を締結した。災害発生後、避難生活をしている住民を対象に休息・情報収集・食事・寝泊りの場所などとして施設を提供することとなる。昨年10月には同自治会と炊き出しなどの避難訓練も実施しており、いざという時のため住民と連携しての備えの強化にも取り組んでいる。
2016年には鳥取中部地震で倉吉市を中心に大きな被害が発生した。温泉地を多く持つことから、地震と隣り合わせだという意識は強い。さらに17年には国道373号線が大雪で通行止めになり300台以上の車が立ち往生するという事態にも見舞われるなど、これまでにも様々な災害が発生していることを受け、地域の拠点づくりを推進している。
【広島・広島石商】
県警と連携を強化
広島石商(大野徹理事長)では昨年締結した「安全・安心なまちづくり」に関する協定に基づき、広島県警と連携した活動を強化している。
これまで「SS110番」として地域の緊急避難先の役割を担うほか、薄暮時のライト点灯や冬用タイヤの早期装着をSS店頭で呼びかけ、交通事故やスリップ事故の未然防止を訴えてきた。さらに防犯の視点から子どもを見守る「ながら見守り」にも協力、安心・安全を守る活動に貢献している。今年度はこうした取り組みをさらに加速・浸透させるため、PR用のポスターを800枚作成し県警に贈呈。警察署やSS店頭などに掲示し、取り組みの周知に役立ててもらおうとの狙いからだ。
【SS過疎概況と対策】
ネックは減販、後継者難・効率化へ共同配送など必要
岡山県の山間地では後継者不在や採算性の欠如からSSが廃業され、SSが無くなってしまう事態に見舞われた地域もある。そうした場所では自治体や地域住民の手によってSS運営が継続されエネルギー供給の“最後の砦”であるSSネットワークが守られている。
万一、ネットワークが途絶してしまえば10キロメートル以上離れたほかの地域に燃料を求めなければならず、高齢化が進む中山間地域の住民にとってはSSの存続は命を守る取り組みにも直結する。周辺地域のSSでは配送エリアを拡大するなどして支援を続けており、今後も住民同士のコミュニティインフラとして、さらに配達時などを利用して高齢者を見守る拠点としてSSの役割はさらに重要となっていくと思われる。
島根県でもSSの閉鎖にいまだに歯止めがかからない状況が続いており、人手不足が顕在化している地域も見られるなど厳しい状況が続いている。
5年に1度、島根県が実施する「中山間地域ガソリンスタンド等実態調査」の結果によると、2030年に事業を「継続している」は 25・4%であるのに対し、「継続していない」は 14・1%、「わからない」は 60・6%に上る。また、事業の継続意向と「経営者の年齢」「後継者の有無」「ガソリン 販売量」には相関関係が認められ、30年の継続意向を「わからない」と回答したSSのうち、①経営者が60歳代以上②後継者が「いない」または「継いでほしい人はいるが、引き継いでくれるかどうかわからない」③ガソリン販売量が月50キロリットル未満ーという3つの条件すべてを満たすところは概ね10年後には廃業する可能性が高いことが同調査からは推測された。
島根石商の青年部「いずみ会」で会長を務める勢田幸憲氏(江津丸善・コスモ系)は、こうした山間地の供給問題について、「合理化、効率化を図り、人手不足に対応することが必要だ」と訴える。「いま、全国的にみてもSSの求人に対する求職者の関心は低い。募集しても応募がない状況が続いており、人手不足が慢性化している。山間地ではSSの閉鎖が加速しているが、SSを効率的にまとめ存続させることで、地域の燃料供給網を守ることができるのでは」と言う。減販が進む中、全体のパイは決まっていることもあり、「奪い合うよりエリアごとの拠点となるSSを中心に集約化に努め、配達についても代行や共同配送することで事態の打開を図り、地域の燃料供給に対する不安を払拭できれば」と話す。
県しまね暮らし推進課では「小さな拠点づくりを進める中で、住み続けてもらうにはエネルギーの確保は不可欠」と話しており、拠点としても、拠点づくりの中心としてもSSの担う役割は重い。
このように、地域の中で重要な役割と期待を担うSSだが、その減少と供給網の寸断を助長するのが、元売統合の進展に伴い需給適正化が進みつつあるにもかかわらず、依然として絶えない量販志向の横行による市場環境の悪化だ。
山口県では県内のJAが統合され、SSの運営が全農エネルギーに移って以降、大型のセルフにリニューアルされたSSでの過度な安売りが収益環境の悪化を促す結果となっており、事態の収拾の目途は立っていない。
かつて下関市では過当競争のあおりを受け、地場のSSが30ヵ所程度も閉鎖に追い込まれる事態を引き起こしてきた。今年になって全農エネSSが相次いでオープンした山口、宇部、萩の各市では地場のSSを中心に収益環境の悪化を強く訴える声も上がっており、このままでは経営が成り立たなくなるSSが出てくることも危惧されている。
一方、広島県では19年11月現在、市町村内にSSが3ヵ所以下のいわゆるSS過疎地は存在しないものの、旧市町村単位でみると3ヵ所以下が43町村、1ヵ所以下は8町村に上り、旧世羅西町ではSSがゼロという深刻な事態に直面している。
こうした実態を踏まえ、広島県石油政治連盟(玉木昌士会長)ではSSネットワークの維持・強化へ向け、県議との意見交換会を開催し、SSを取り巻く環境、課題、今後の見通しなどを訴え、政治支援を要請するなどして改善に向けた対策を進めている。
広島石商の大野徹理事長は、「SSがなくなればエネルギー供給網は寸断し、安定供給の役割が果たせなる。今後も様々な取り組みで地域への貢献を果たしつつ、基盤を固めながら地域の安全安心を守る拠点として取り組みを進めていく」と、SSネットワークの維持へ向け決意を述べる。