ポンプあいらんど
2020年1月10日
ポンプあいらんど
▼映画の上映が終わった途端、まだ暗闇の館内で信じられない出来事が起こった。満員の観客席から大きな拍手が沸いたのだ。上映作品は「男はつらいよ お帰り 寅さん」。1969年から毎年1、2本のペースで制作され、映画ギネス世界最高を記録した人情喜劇・男はつらいよシリーズ▼昭和、平成と正月映画の定番だったその50作目が22年ぶりにスクリーンに甦った。主演の渥美清さんが96年に亡くなった後の2本目。CG技法などの前作「特別編」(97年)に続きノスタルジックなものと予想していたが想像をはるかに超える笑いと涙の〝令和の寅さん〟だった▼マドンナに振られたり家族や中小企業の現実に悩むタコ社長と大喧嘩したりの名場面、名文句を回想しつつ、平和ニッポンと対比して戦火と貧困に苦しむ世界の現状。偶然とはいえ元日産会長カルロス・ゴーン被告の逃亡先レバノンも映し出され、山田洋次監督の力の入れようが伝わってくる▼上映後に感動の拍手を聞いたのは初めて。それも大都会の高層ビル内にあるシアターで。「帰省スルー」など実家との関りを面倒がる風潮が見られる中、故郷や家族の大切さを訴える寅さんの姿は、オールドファンだけでなく日本人の心をつかんで離さないのだろう。2020年の明るいスタートを十分に感じさせる拍手の渦でもあった。