連載 特集

農林漁業部会特集 19年度 第2回 IMO規制対応と適合油・周辺油種への影響 ②

2.IMO規制スタート

〝適合油〟流通が本格化
 周辺油種動向に高い関心

 海運における大気汚染の防止などを図るため、日本を含む世界の一般海域で船舶用燃料油の硫黄分濃度規制を従前の3・5%以下から0・5%以下に低減することを海洋汚染防止条約(マルポール条約)で採択した国際海事機関(IMO)の方針に沿い、今年1月1日から“適合油”の供給が義務付けられ、流通が本格化している。これに先立ち、元売各社は昨秋ごろから順次、適合油の供給を開始。需要家側・供給者側はそれぞれ情報収集や実証事業などを通じ、円滑な移行に備えてきた。世界的に新たな規格の適合油が市場に流通することで、周辺油種の供給量や価格がどうなっていくのかに強い関心が寄せられている。今年度の農林漁業部会特集第2弾では、規制開始前後に生じている変化、注目点、課題、今後の見通しなどを探る。

適合油のサンプル。HSC重油に比べてサラサラしているという
適合油のサンプル。HSC重油に比べてサラサラしているという

【小型船でA重油転換も】
 販売業者 相場注視・出荷枠確保を

 漁船を除いた内航船舶の燃料油年間需要はおよそ340~350万トン水準での推移が続き、C重油が200~250万トン程度を占め、うち約3分の1がフェリー向けと推察されている。C重油は総じて使用量こそ多いものの、ユーザーと販売業者は一定程度に限られる。主要関係者は、大型船を保有する船会社、燃料商社などが中心で、今月初頭からの規制強化開始に前後して適合油の利用が本格的に始まった。
 需要家の最大関心事はやはり「価格」に集中しているようだ。石油元売・海運双方による実証事業などを経て、適合油の品質は最終的に担保されると当初から踏んでいた。だが、参考となる価格指標がなかったことで「身動きが取れない」状態がしばらく続いた。
 従来の高硫黄C重油(HSC重油)に比べて適合油はキロリットル1万円程度割高なレンジで供給が始まったため、いままでと同様にHSC重油を用いるべく、スクラバーで対応しようとの動きも一部で増え始めたようだ。特に前向きなのがフェリー会社。フェリーは航行ルートがほぼ定まっており、適合油が安定的に入手できる。ライフサイクルは20~25年程度に及ぶことから、その間にエンジンや船体、塗装などの技術が大幅向上するため、燃費も2割程度改善されるという。公共交通を担うフェリーは中長期視点での経営判断もしやすく、適合油とHSC重油の価格差に加え、新造船への切替効果が高いことから、コンパクト化も進んでいるスクラバー対応を計画・選択する動きにつながっているようだ。
 これに対し、ケミカルタンカーなどの小型船では、HSC重油からA重油に燃料転換するケースも少なくない模様で、「総トン数が499G/T以下か、749トンG/T以上か」「定期船か、スポット船か」がA重油転換の1つの目安との見方も。C重油を温めるボイラー技士が減員できたり、フィルター清掃の頻度が少なくて済むなど、人手不足の緩和や労働環境の改善に資するメリットも見逃せない。また適合油とA重油の価格が接近したことで、いまはA重油に切り替え、様子を見ながら柔軟に選択する構えをみせている需要家もいるという。
 一方、販売業者側の関心事は「各油種間の価格差」と「他油種の供給量」への影響である。適合油の需要が増えれば、他油種のブレンドなども増え、A重油をはじめ軽油や灯油の供給量と価格にも変化が生じる可能性がある。元売各社が大型再編をほぼ終えたいま、各油種ともに需給均衡が進んでいるからだ。
 IMO規制が求める適合油はグローバル商品。滑り出しでは供給が追いつかず、特にシンガポールではスポットオーダーに対応できる状況ではなく、タイト感が強く現れている模様だ。価格も高止まりしており、適合油と軽油が同レベル、一時的には軽油よりも割高になる異常事態も生じた。元売が適合油を輸出すれば、周辺油種の供給量や価格に異変が現れかねない。
 こうした中、元売に対し「油種を切り替えた場合でも、少なくとも従来から取り扱ってきた船舶用燃料と同量の出荷枠は確保してほしい」との声も聞かれる。また、中東情勢の緊迫化によって石油製品への関心が高まる中、特に適合油は市場相場で取引されていることからも「合理性のない流通に対する目を光らせる必要がある」という見方も出ている。