九州・沖縄 特集

【2020 新年特集】 九州特集 山積する難題克服未来を開く年へ②

 2020年がスタートした。少子・高齢化、過疎化、景気回復の遅れ、低燃費車の増加、若者の車離れなどSSの経営環境は厳しさを増している。人手不足、後継者問題も深刻だ。一方で元売の経営統合や業転玉の減少などによってガソリン市場は改善する傾向にあるが、低価格で集客するSSが点在し、その周辺を巻き込んで過当競争が広がっている地域もある。ガソリン市場を中心に九州各県・沖縄県が抱える今年の課題を追う。

喜多村利秀九州支部長
喜多村利秀九州支部長

【喜多村利秀九州支部長】
 〝粗利益率〟に発想切り替えて

 九州のガソリン市場は、元売の経営統合が進む中で比較的安定してきたが、少子・高齢化や低燃費車の増加などによって減販が続き、過当競争によって厳しい経営を強いられているSSも多い。こうした経営環境で、生き残るためにも組合としては可能な限りの活動をする。
 一般の小売業はよく『粗利益○%』というが、SS業界では『リットルあたり○円の利益』という言い方をする。減販が続く中でSS業界も『粗利益率』という意識に切り替え、SSが安定経営できる『粗利益率』の確保を目指したい。
 それぞれのSSには「近くのSSに定期的に給油に立ち寄る」(最寄り性、来店頻度)という他の業種にない利点を活かす経営を懸命に考え、地道に取り組むことが重要だと思う。

【熊本】
過熱しやすい市場環境・迫るコストコの県内進出

 「九州各県の中で最も低価格」と長く言われてきた熊本県だが、ここ1、2年は「比較的落ち着いた市場」になっていた。しかし、最近になって再び市場は混乱し、“過当競争の再来”といわれる状況になって来た。
 その要因の1つは、影響力を持つ“プライスリーダー”が少ないために、競争が激化しやすい環境にあること。もう1つは、九州の南北を結ぶ九州自動車道と東西に向かう交通の要衝であることに加え、福岡県に次いで大きな市場のため大手量販店にとって魅力があること。さらに道路網の整備が進んでいる割に地価が比較的安く、大型SSが立地しやすいためだといわれる。
 量販店の中には計量機の近くに「税抜き価格」を表示しているSSもある。「プリペイド○円引き」という看板も目立つ。県内・県外資本の計20数ヵ所のSSで安売りし、これらに対抗して数社が価格追随していくために負のスパイラル状態に陥っている。
 さらに、SSを併設した大型日用雑貨・食料量販店「コストコ」が今年2月にも御船町に着工する予定。その商圏は広く、隣接した熊本市の市場にも影響を与えることが危惧されている。
 「熊本地震では、県内のSSが自ら被害を受けながら献身的に緊急自動車や顧客に給油した。これ以上SSが減ることになったら住民の暮らしを支え、安心安全を守るネットワークが維持できなくなる」と、先行きに対する不安を周辺SSは訴える。

【鹿児島】
 「働き方改革」どう対処・離島供給へSS設置検討

 鹿児島県は大手3社の特約店がプライスリーダーとなって、比較的安定した市場を形成している。その背景には江戸期、明治期から続く、いつの時代でも変わらぬ県民性と地域密着、「共存共栄」の精神が根付いているからともいわれる。
 しかし、鹿児島市内、県北などに計10数社の“安売り店”が存在し、1リットル10円前後安い価格で販売している。これらの店が周辺のSSを巻き込む可能性はあるが、大半のSSは「過当競争には巻き込まれない」と冷静な姿勢を貫いているようだ。全体の需要が減少する中で、安値競争が過熱すれば、“経営危機”に陥るという「結果」を意識しているからだろう。
 SSの生き残りをかけた今年の大きな課題は「働き方改革」だ。少子化、若年労働力の県外流出は深刻で、多くのSSが「魅力ある職場づくり」に力を入れ、年末・年始に休業日を設けるなど本格的に取り組んでいる。
 一方で、同県には26の有人離島があり、約16万人が居住しており、暮らしを支える燃料の安定供給は大きな課題だ。十島村では2018年夏、念願の「宝島給油所」が開所、もう1つの“ゼロSS島”の三島村で設置が検討されている。

【宮崎】
 量販店が猛威、SS閉鎖増加・訓練重ね防火力を強化

 ガソリン市場に影響力のある地元の広域量販店(PB)が各地で低価格販売を行い、加えて熊本、鹿児島との県境地域では地場のSSによる安売りが目立つ宮崎県。
 県全体の販売量の約4割をこれら量販店が占めるともいわれる厳しい環境にあることから、経営破綻するケースも相次ぎ、最近でも10近くの大手SSが閉鎖した。
 ただ、元売の経営統合の進展とともに、全般的に市場には安定化の兆候も見られ、収益も比較的上昇はしてきてはいる。課題は再投資可能な経営をいかにして実現していくかだ。
 こうした環境下、宮崎石商・協(植松孝一理事長)は、組織改革・財政の健全化に積極的に取り組み、県内の各支部と県石商との役割を明確化、再構築した。またネットワークを活用して官公需共同受注事業を高能率化、省力化するシステムを独自に開発し、組合活動を強化している。
 さらに万一南海トラフ巨大地震が発生した場合、九州では最も被害が大きいと予想されていることもあって防災意識は高く、県主催の総合防災訓練には積極的に参加し、防災コーナーも設置、独自に『満タン&灯油プラス1缶運動』を展開、昨年11月の研修では『熊本地震』をテーマに防災・減災について意見交換した。
 ガソリン市場の縮小は組合のあり方に影響を与えることは避けられず、これらの組合組織・活動をどう発展させるかは宮崎県だけでなく、全国の組合の課題だ。

【沖縄】
 好調な経済維持が焦点・厳しさ増す人手確保

 内閣府沖縄総合事務局経済産業部の担当者は「沖縄経済は好調」と言い切る。その要因の1つが観光客の増加だ。県が昨年11月「2018年度の観光客数は当初999万9千人と発表していたが、実際は1千万人の大台を超え、1千万4300人だった」と訂正したニュースは記憶に新しい。
 県によると、昨年7~9月期、百貨店・スーパーの販売額は、既存店、全店舗ともに前年を上回り、自動車(新車)軽自動車の販売数数は前年を上回っている。これらを背景に昨年10月の沖縄労働局の統計では有効求人倍率は前月より0・02ポイント上昇して1・12倍、正社員有効倍率も前年同月比0・03ポイント増の0・63倍になった。
 SSでも人手不足が深刻化。多くのSSが「求人しても人が集まらない。現在のスタッフだけで仕事をしなければならないので休憩も休日も取りにくい」「やっと働いてくれる人を見つけても、少し厳しく仕事のやり方を教えると、すぐに辞めてしまう」「スタッフが少ないので油外の仕事に手が回らず収益が上がらない」といった悩みを抱えている。
 沖縄石商青年部会(嘉手川彦会長)は毎年、チャリティ洗車キャンペーンを実施し、県交通遺児育成会に収益金を寄付している。昨年2月、離島の座間味村(座間味島)でガソリン地上タンクが完成したが、地元のSSや県石商・協(濱元清理事長)が敷地確保や関係者との交渉など懸命に努力してやっと実現した。これらの地道な活動はSSのイメージアップや求人活動につながりそうだ。