東北 特集

【2020 新年特集】 東北特集2 過疎地の供給守れ

存続へ向けた様々な取り組み

 高齢化と人口減が進む東北の各地でSSの廃業が止まらず、地域住民の生活を脅かす「SS過疎」が現実のものとなりつつある。民間事業としてはなかなか成り立たない状況が生まれる中、宮城県内では公設民営SSや住民自治組織のSS経営など新たな枠組みで地域のSSを存続させる動きが出始めた。過疎地でSSを守ろうとする取り組みの現状を紹介する。

販売が好調なSSに立つ梅津社長㊧と泉田さん(便利屋商店・セルフ七ヶ宿SS)
販売が好調なSSに立つ梅津社長㊧と泉田さん(便利屋商店・セルフ七ヶ宿SS)

【七ヶ宿町 便利屋商店・セルフ七ヶ宿SS】公設民営化から1年 行楽客給油で売上増

 SS過疎対策として人口約1400人の宮城県七ヶ宿町が開設した公設民営SS「便利屋商店・セルフ七ヶ宿SS」がまもなく開業から1年を迎える。当初は販売が振るわなかったが、町が目指す交流人口の増加がSSの売上増につながってきた。
 七ヶ宿町は宮城、山形両県をつなぐ羽州街道沿いにあった7つの宿場が由来。同SSは山形県高畠町から宮城県白石市に抜ける国道113号沿いの町役場近くに昨年1月オープンした。廃業したSSを町が買い取り委託営業していた旧SSの後継施設だ。
 運営を受託するクリキク七ヶ宿(コスモ系)の梅津政志社長は「開業当初は売り上げが伸びず心配したが、ゴールデンウィークから急に伸び、これまでの平均月間販売数量は旧SSの倍近くにまでなった」と話す。
 8月も好調で、観光シーズンの行楽客の給油が想定を大きく上回る。福島市―米沢市間が無料の東北中央道の開通で、山形側から訪れる客が予想以上に多い。逆に台風19号豪雨による土砂崩れで白石市に向かう区間の113号が不通になり、宮城側から入る行楽客の車がぐっと減ると、SSの売り上げも一気に落ちた。交流人口がSSを支える構図だ。
 地域住民ではセルフ給油になじめない高齢者もいるが、スタッフが丁寧な接客で応対しているのが好評だ。効率営業を目指し平日に設けた定休日への不満も解消されつつある。町内の工事現場への軽油配送や各家庭への灯油配達も順調。減価償却負担がないこともあり、収支は早々と黒字になった。
 スタッフのうれしいニュースもあった。町の地域おこし協力隊に応募し町内で働きだした夫とともに移住し、SSで開業時から働く泉田歩美さんが9月の危険物取扱者試験に合格した。「なんでも制限なく応対できるようになり、自信を持って仕事ができるようになった。早く一人前になれるよう頑張ります」と語る泉田さんの傍らで、梅津社長が目を細めた。

【栗原氏 栗っこライフサービス・畑岡SS】「週2日営業」が奏功 廃止寸前一転、黒字へ

 宮城県栗原市若柳(旧若柳町)に、赤字続きで廃止寸前まで行きながら地元の反対の声に応えて存続した結果、黒字転換したSSがある。起死回生の生き残り策は営業日を週2日に減らす奇策だった。
 新みやぎ農協(栗原市)の子会社「栗っこライフサービス」が旧若柳町畑岡地区で営業する畑岡SS。「営業日」の水曜に取材に訪れると、軽トラックなど農家の車が待ってましたとひっきりなしに給油に訪れ、1人で店を切り盛りする男性スタッフは大忙しだった。
 営業日は水曜と土曜の週2日。農家の繁忙期には営業日を増やすなど、顧客農家の事情にも配慮する。「当初は不満も出たが、1ヵ月前に翌月の営業日をポスターなどで告知するなどした結果、いまはすっかり定着した」という。
 畑岡地区は田んぼが広がる田園地帯にあり、人口約1800人の過疎地域。2015年度までは人口減少を受けて売り上げが年10%ほど落ちていた。赤字は年間500万円に膨らみ、閉鎖が既定路線になった。
 同社が14年度から存廃論議を始めると、地元農家からは強い反対の声が上がった。最寄りの登米市佐沼のSSは7㌔ほど離れ、不便になる。かといって生き残りの妙案は浮かばなかった。重い空気が漂う会議の席で役員の1人がつぶやいた。「SSは毎日営業する必要があるのかなあ」
 この一言をきっかけに存続へ一気に動き出す。日曜を除く週6日営業していたのを週2日に減らして人件費を削減。給油油種は軽油とレギュラーガソリンに絞り、灯油は別のSSから配達する。16年2月、畑岡SSは新体制で存続した。
 1営業日あたり50人だった給油客数は倍増。コスト管理を徹底した結果、わずかながらも黒字転換を果たした。
 当面の課題は設備の老朽化だ。地下タンクは35年が経過し、配管なども含め5年後の更新に1千万円近くかかる。菅原秀一自動車燃料課長は「今後の存続には課題もあるが、できる限り農家の思いに応えていきたい」と話している。

【丸森町 筆甫地区振興連絡協議会】地区唯一のSS承継 交付金受け総合サービス展開

 人口約550人の宮城県丸森町筆甫地区では、住民自治組織の一般社団法人筆甫地区振興連絡協議会(引地弘人会長)が、廃業予定だった地区唯一のSSを引き継ぎ、営業している。最大の強みは、連絡協が町から交付金を受け、SS以外にも公民館や商店の運営、町役場の窓口事務などを請け負い、総合的な住民サービスを展開していることだ。
 過疎地SSの生き残り策として「地域の総合サービス拠点化」が謳われるが、筆甫SSはまさにその先進事例だ。
 強みが発揮されたのは丸森町を襲った台風19号のときだ。阿武隈川、支流の氾濫や至る所での土砂崩れで、町中心部から10㌔ほど離れた筆甫地区は孤立状態となった。電気も水道も止まり、自衛隊や警察も陸路では入れない中、SSスタッフを率いる引地会長は地元消防団員として住民の安否確認や逃げ遅れた人の避難支援に当たった。
 発災からしばらくは大型ローリーが入れず、燃料在庫が底を突く寸前までいったが、引地会長は仕入先の元売、特約店、運送会社、役場関係者と会議を持ち、走行可能な福島県相馬市から入るルートの安全性を確認。発災から10日後に燃料を補給できた。
 連絡協の吉澤武志事務局長は「SSは住民に迷惑をかけずに燃料を供給できたため、ありがたみは薄かったようだ。むしろ食料品の確保にあたった商店のほうが住民から喜ばれた」と笑う。
 至る所で小道が崩れ、車で入れない民家が数多く出る中、復旧作業で活躍したのは地区内で太陽光発電所を建設している会社だ。仕事柄、道路に敷く鉄板や工事機材などを保有しているのが役立った。この会社は筆甫SSから日常燃料供給を受けており、顔の見える関係が非常時に生きた。
 筆甫地区ではいまも町外の親族宅などに避難している住民が少なくない。地区内の見回りを欠かさない引地会長は「高齢化が進んでおり、このまま筆甫に戻らない住民も出るだろう。SS経営への影響が心配だ」と顔を曇らせた。