全国 組織 インタビュー 特集

【2020 新年特集】 石連・全石連トップ対談 精販協働し社会的期待に応える

【石油連盟】月岡隆会長 【全石連】森洋会長

 「平時」はいうまでもなく、「災害時」におけるエネルギー供給〝最後の砦〟として、石油とSSの社会的な存在意義が一層高まっている。だが、再投資可能な経営なくして、その期待に応え続けることはできない。燃料油内需の構造的な減少傾向が続く中、我が国の石油流通網を維持するためには個々の企業努力が欠かせない一方、持続的成長を導く精販連携の重要度も増している。石油連盟・全石連の両会長による恒例の新春対談。現状の諸課題を踏まえつつ、展望を語り合った。

『満タン運動』に代表される精販の連携強化を確認した森会長(左)と月岡会長
『満タン運動』に代表される精販の連携強化を確認した森会長(左)と月岡会長

油価上昇圧力強まると予想

Q 市場の動きと見通し
 月岡 昨年の原油市場は、OPECをはじめロシアなど主要産油国(OPECプラス)が協調減産を続ける中、米中貿易摩擦の激化、米国のシェールオイル増産、イランによる米国の無人偵察機撃墜、サウジアラビアの原油処理施設および油田への攻撃、それに対するサウジの迅速な生産回復など、様々な出来事が重なりました。WTI相場は年初の1バレル46・54㌦~4月下旬の66ドル強の範囲で一進一退が続き、7月以降は概ね50㌦台のBOX圏で推移しました。今年は、世界各国で"脱化石燃料"化への取り組みが加速すると見込まれ、油田開発投資が抑制される可能性があります。また、OPECプラスが協調減産幅を今月から日量50万バレル拡大することに合意したことや、原油需要は新興国を中心に引き続き増加が予測されることから、価格は50ドル台後半から60ドル台に向けて徐々に上昇圧力が強まることが予想されます。
 森 燃料油の小売マージンは数年前に比べると多少改善していますが、昨年10月の消費税増税を前にした駆け込み需要は鈍く、増税以降は天候の影響も重なり特にガソリンの減販が顕著です。また、一部の量販指向業者による廉売も続いており、周辺市場への影響はより深刻化し、特に中小フルサービス店の経営存続を危うくしています。
 一方、今年から始まった国際海事機関(IMO)による船舶用重油の硫黄分濃度規制強化に伴い、国内でも適合油の供給が本格化します。A重油への燃料転換も想定されており、規制強化は全世界に及ぶため、高硫黄C重油に軽油等を混ぜて適合油を生産することにより、中間三品の供給量や価格に影響が生じてくるとの見方もあります。販売業者としては市場動向を注視しながら対応していくことが必要です。

需要減対応へ成長領域模索

Q 需給情勢と内需減への対応
 月岡 消費税増税や自然災害の続発が需要減を加速させるなど、エネルギーのさらなる構造変化につながらないよう、業界としてはきちんと安定供給している姿を見せることが歯止めをかける方法の1つだと思います。元売再編に伴って需給環境は適正な状態となっていますが、内需の減少傾向は変わらないので、元売各社は再生可能エネルギーや海外戦略といった今後伸びていく事業領域も模索しています。
 森 昨春時点における資源エネルギー庁の見通しでは、今年度のガソリン需要は前年度比1・6%減でしたが、現状はこの想定を上回っており、昨年はついに5千万キロリットルを割り込んだ模様です。23年度までの5年間平均予測は2・2%減ですが、需要減に拍車がかかる可能性も低くないでしょう。石油販売業者・SSは地域のエネルギー供給の"最後の砦"として石油製品を安定供給する責務を果たしつつ、多様化する消費者ニーズに最大限応え続けていかなければなりません。
 JXTG統合後、需給バランスは大幅に改善されましたが、出光昭和シェルが発足したことで、今後、需要に見合った生産体制が一層進むと期待しながらみています。小売市場も不毛なシェア争いから速やかに脱却し、精販双方が再投資可能な収益確保に全力で取り組み、それを続けていく必要があります。地場業者も新たな商品・サービスや事業多角化を懸命に模索していますが、生業を守り抜くために、安定した収益を複合的に積み上げ、経営基盤を強固にしていく必要性が一層増しています。
Q 石油販売業者、SSの減少に対する問題意識
 森 18年度末現在、市町村内のSS数が3ヵ所以下のいわゆる"SS過疎地"は325地域へと増加しました。全国1724市町村の2割弱がSS過疎地ということになり、全国津々浦々にまで安定供給体制を維持することへの懸念が強まっています。これ以上のSS減少は石油流通網の崩壊につながりかねず、各地で頻発する自然災害への対応という観点からも、SSネットワークを維持・強化していくことが不可欠です。これは、国民の安心・安全の確保にもつながります。
 月岡 SS数は減り続けていますが、ここ3年ほどは減少数・減少率ともに緩やかになってきました。しかし、今年~来年に経年40年、50年を迎える地下タンクが増加するとの見込みもあります。SS過疎地対策の実証事業として、タンクローリーと計量機を直結して給油する手法や、コンテナ型の仮設給油所などの安全性等が検証されていますが、こうした方法が認められることで給油拠点を残すことができ、SS過疎地での供給を維持することにもつながると考えています。

地域支えるSSサポートを

Q 精販双方の安定経営に向けた取り組みや支援策
 森 SS数はピーク比半減となる約3万ヵ所にまで激減しました。そのうちセルフSSが全体の約3分の1を占めるに至り、相対的に増勢しています。こうした中、クルマはCASE(=つながる、自動運転、シェアリング・サービス、電動化)が一層進み、MaaS(=マイカーと同等以上の様々な移動サービス)も広がり始めています。保有台数の減少や燃料油の減販が続くとの前提で、地域社会やお客様が求める多様な商品・サービス・事業の検討や導入を積極化していく重要性がますます高まっており、販売業界でも車販、レンタカー、カーリース、カーシェアリング等に加え、宅配便ボックス設置など新たな分野への進出事例も広がってきました。
 一方、元売各社も次々と"次世代SS"化を促す支援施策を打ち出されています。大資本ならではの開発力や展開力を活かした提案に期待していますが、現状の販売促進策をはじめとして、その方向性はセルフSSに傾注していると我々の多くには映っています。フルSSはセルフSSの2倍で2万ヵ所。ここにもっと目を向け、地域のコミュニティインフラ、災害時の"最後の砦"となるフルSSも手厚くサポートしていただきたいと思います。
 月岡 燃料油需要は一気に半減する訳ではありません。いまある需要に対して、大切に、丁寧に販売していくこと、適正なマージンを確保し、きちんと利益を得ることが重要です。元売としては今後不可欠なデジタル技術を活用しながら、SSのお客様との接点強化や、その量と質のさらなる向上に挑戦していきます。
 石油連盟としてもセルフSSではタブレット端末を使って給油許可を出せるようにする規制緩和を求めており、順調に進めば4月以降、従業員が店内に常駐せず、他の業務と並行して給油許可を行うことができるようになります。
 現実問題として、元売が全国一律のサポート施策を打ち出すのは以前に増して難しくなっています。地域社会に根差したSSが「ラストワンマイル」を支え、コミュニティサービス等との連携を通じ、多様なニーズに対応していくことが皆さんの大きな役割になるでしょう。元売として、それらを支援していく形もあり得るのではないでしょうか。

災害多発で『満タン運動』促進

Q 相次ぐ自然災害への対応と今後の課題
 森 昨年も自然災害が多発し、都度、燃料供給の重要性が声高に叫ばれ、対応に努めました。特に8月の九州北部豪雨では、佐賀県をはじめとする組合員のご尽力により、洪水対応のポンプ車への燃料供給がとても円滑に進みました。元売各社の貢献とともに、平時からの官公需契約が災害時の安定供給に大きく寄与した象徴的な事例です。また、秋には台風15号に伴い千葉県で広域・長期停電が発生したほか、台風19号、21号と相次ぎ、関東・東北を中心にSSも浸水や施設破損などの被害を多数受けました。それでも、地場業者や石油組合の役職員は自ら被災しながらも状況把握や供給要請に即応し、周辺都県を中心とする仲間の皆さんにも協力を得て、自家発電機を備えた中核SSや住民拠点SSに加え、緊急用バッテリー可搬式計量機やタンクローリー直結型計量機を使い、昼夜を問わず懸命にSSの供給責務を果たしました。また、軽油ローリー等により電源車や病院などへの緊急配送にも尽力しました。改めて敬意を表し、感謝申し上げます。
 他方、認識が深まったこともあります。『満タン&灯油プラス1缶運動』は今年で4年目を迎えますが、日ごろから災害に備える民間備蓄の必要性を訴え続けてきた中で、台風15号による社会教訓を踏まえてマスコミが台風19号の接近前に「ガソリンを満タンに」と呼びかけたことなどから来店者が急増し、社会混乱の拡大抑制につながりました。『満タン運動』は決して商売ありきではなく、国民の生命・財産を守るためと位置付けてきましたが、ようやくその意図が一般にも浸透し始めました。災害大国でエネルギーの安定供給責務を担う石油業界が強固に連携し、永続的な国民運動として取り組んでいければと考えています。
 月岡 従来、製油所・油槽所の災害対応は地震や津波への対策が中心でしたが、台風19号では内陸部の鉄道輸送や道路が使えなくなりました。自力で対応できない場合に備えたバックアップ方法などの検討が必要でしょう。『満タン運動』はメディアにも災害時における石油の重要性への理解が進んできていることがわかり、国民にもだいぶ浸透してきたと感じます。地道にこの運動を続けながら、これからも様々な機会を捉えてPRしたいと思います。一方、台風19号に備えて来店ユーザーが急増したため在庫が切れたSSも少なくなかったことから、今後、流通在庫について、災害対応も考慮していかにあるべきかを精販含めて考えるべきではないでしょうか。
Q 政策的な災害対応支援の必要性
 森 店頭販売や個別配送を通じて、全国津々浦々に石油製品を柔軟に供給できるのは我々だけです。自家発電機を配備した中核SS、住民拠点SS、そして小口燃料配送拠点は、政府の「国土強靭化プラン2019」にも必要性と普及拡大が明記されています。現在も住民拠点SS8千ヵ所の早期整備を鋭意進めていますが、さらなる拡充が必須と考えており、緊急配送要請に応えるタンクローリーの導入補助なども大事です。また、SSの経営効率化に資するPOS導入支援や、過疎地・離島対策の拡充等についても、引き続き国の支援を得ながらインフラ機能を堅守し、安倍政権が掲げる国土強靭化の一翼を担っていきたいと思います。
 月岡 住民拠点SSは一昨年の北海道胆振東部地震による全道ブラックアウトや、台風15号に伴う千葉広範停電の際に重要性が再認識されました。まずは8千ヵ所をできるだけ早急に設置したうえで、さらに1万ヵ所までという構想も国にはあるようですので、それに伴って災害時における石油の供給信頼性がより増していくと思います。
Q 社会的理解の促進に向けた協働と広報活動
 森 『満タン運動』への認知を深めるため、月岡会長は機会あるごとに意義を訴えられています。石油産業が国家の根本を成すこと、平時から石油流通網が維持されていることが大前提となること、SSが"最後の砦"であることについて、これからも一緒に浸透させていきましょう。この趣旨が評価され、初めて国庫補助を受けることもできました。地域の安全・安心を守るSSの姿をもっと周知するために、関係者の方々にも引き続きご理解・ご協力をいただきながら、国と民間、精販がそれぞれの役割を補完し合い、国土強靭化に協働していきたいと思います。
 月岡 石油業界も様々な災害対策をハード・ソフト両面で行ってきましたが、過去の災害では平時の3倍以上のお客様がSSに殺到し、長時間お待ちいただいた事例もあります。供給不安を解消していくためにも、消費者備蓄としての『満タン運動』の周知は今後とも必要です。石油連盟では、石油業界の災害対策と満タン運動の推進に関する解説動画を作成してHPに掲載していますが、これからも様々な形でこの運動に協力したいと考えています。

力合わせて公平な税制実現へ

Q 増税反対総決起大会について
 森 一昨年の「石油増税反対総決起大会」では、石油連盟と全石連・油政連の一致団結した運動によって、自動車税の減税分をガソリン税の増税で穴埋めしようという増税案を阻止しました。昨年も消費者・お客様の負担軽減を目的に「これ以上、石油増税には絶対反対!」「これ以上、自動車用エネルギーへの不公平な課税を許すな!」「これ以上、ガソリンスタンドを減らすな!」をスローガンとし、来賓出席いただいた82人の与党国会議員に、特に環境省が計画している炭素税導入への反対を訴えました。この炭素税に関しては、結果的に環境省から具体的増税案が提出されなかったことから、与党税制調査会でも議論されることはありませんでした。ただ、税制改正大綱そのものには気候変動問題が記載されていることから、今後も炭素税導入に向けた動きが出てくることが予想され、油断できません。
 石油製品にさらに高い税金を課すことは、経済活動だけでなく国民生活、特に地方の生活の足であるクルマを利用できなくするなど、地方創生を掲げる政府方針にも反します。我々は来年に向けた今秋の税制改正運動でも国民の目線に立ち、引き続き力を合わせて増税阻止に取り組む必要があります。
 月岡 長年共同で開催している総決起大会は、税制に対する認識を1つにする良い機会ですし、多くの先生方に業界の税負担についてご認識いただく良い機会でもあります。しかし、昨年10月から消費税が増税されましたが、これにより石油諸税と消費税を合わせた石油に係る税金は年間約5兆8700億円にも及ぶほか、ガソリン税や石油石炭税に係る消費税分、いわゆるタックス・オン・タックスも3300億円規模にもなることを国民の多くが知らないと思います。今後の増税阻止はもちろんのこと、現状の税負担についても、協力し合いながら地道に軽減運動に取り組んでいく必要があります。
Q 課税の公平性
 森 課税の公平性については、一昨年に石油連盟とともに欧米を調査し、税負担のあり方について問題提起してきました。電動車両が増え続けている中、国としても放置できない問題で、なんらかの動きが出てくる可能性がありますので引き続き注視しつつ、的確に対応していかなければなりません。
 月岡 石油連盟は利用者の公平な負担という観点から、EV等にも走行距離に応じた課金をするなど自動車燃料課税相当の課税を行い、公平性を確保することを要望しています。いずれ制度が導入されるとしてもまだまだ時間がかかると思いますが、税の公平性を訴えていく中で、各国の動向などにも目を配りながら提言していきたいと思います。