近畿・大阪 市場 特集

【2020 新年特集】 大阪特集 どうなる?今後の業転取引

 石油製品市場は変わった。JXTG誕生以降、需給の均衡化や系列仕入れと業転仕入れとの格差の縮小、精製施設の集約など、シェア争いの鎮静化を図る元売の再編効果がSSの運営のあり方を巻き込み大きく変化している。中でも業転市場はかつてと全く異なる形態に変容し、市場に影響を及ぼしている。今後業転を取り扱う商社・卸売会社の対応や新たな取り組みとともに、変化する業転取引を大阪から予測する。

バージ船で業転玉を運ぶ光景が見られなくなる日も…
バージ船で業転玉を運ぶ光景が見られなくなる日も…

【出荷元の現状】元売再編で進む“平準化” 系列外取引減少の一途

 石油業界は昨年4月の「出光昭和シェル」誕生によって、元売再編がほぼ最終局面を迎え、今後の供給網のあり方も予測可能な環境にある。
 この再編により5元売、4グループになった元売の仕切価格は平準化が進み、いままでのような独自性は影を潜めている。「シェア」という言葉に代表される競争力は低下しており、画一化した仕切価格となっているのは確かだ。
 出荷量も過去に比べてより細かく管理が行われ、商社や卸業者が扱える石油製品は「枠」という数量制限で毎月決められており、増販は基本的に認められない。
 逆に契約数量未達成の場合は、翌月には調整が入り、契約期間以降の出荷数量の取り決めに大きな影響を及ぼす。出荷ポイントのチャージ料の見直し改定や、新たな出荷停止ポイントの設定を行うことで、系列元売以外との取引は減少の一途。特に商社・卸業者への出荷ポイントはより少なくなっている。

【IMO規制】“水面下”の市場を表出 中間三品も系列取引

 今後需給に大きな影響を及ぼす可能性があるのが、海洋汚染防止条約で硫黄酸化物の排出基準が強化されるといういわゆる「IMO規制」だ。
 新燃料出荷による需給バランスが大きく変化することは確実で、その供給体制が問題となっている。
 規制問題での船の対策方法は3つある。①低硫黄燃料への切り替え②排ガス清浄装置の装着使用③LNG等への代替燃料への切り替え―だが、初期投資を考えると排出規制に適合した燃料への切り替え、いわゆる適合油の使用が簡単かつ費用もかからない選択だろう。
 新燃料のコスト増をいかに包含するかが課題になることから、大半の船は①に当たる適合油の使用に進むと想定される。その後、新造船へ代替時には②の装着船や、LNG等を代替燃料とする船にコスト面も踏まえて選択されて行くと想定される。
 それまでを移行期間とすると、適合油が概ね一般的になっていくだろうと船舶燃料の関係者も話している。
 昨年の10月より一部で出荷が開始され、今年1月より本格出荷されている適合油の製造方法を簡単に言うと、現在、適合油は精製からは作られておらず、A重油と軽油のブレンドだとされている。今後IMO適合油として、出荷が本格的に行われていけば、中間三品の需給バランスが保たれるかが問われる。
 この規制問題が需要期の冬場からの開始になったことが一番の懸念材料でもある。季節要因などで需給バランスが崩れ、品薄と価格高騰を招かないのか、不安材料はぬぐえない。
 もともと業転市場において最も売り上げが高額になるのは、中間三品であり、とりわけ軽油はその取扱量と、販売先が多いことから、「最も効率的な油種」「売れ筋」といわれてきた。IMO規制により、水面下に潜んでいた中間三品業転市場が表出し、業転としての役割を果たさなくなる可能性を指摘する商社関係者は多い。

【業転業者】合理化・統廃合で精製設備が集約 出荷地限定、高コスト化

 製油所施設の合理化や統廃合も業転市場に多大な影響を与える。昨年、JXTGが近畿地区で資本出資していた輸出型石油精製会社を完全に買い戻し、精製施設を廃止、独立系発電事業に転換する計画を発表した。
 同時にいままでの輸出型石油精製会社の機能を関東のグループ製油所に移すと発表した。これにより精製設備は減少することになり、より需給均衡が進むことは確実な情勢となった。
 結果として、商社がこれまで支店で交渉のうえ獲得してきた業転枠は、いまや「元売本社一括」という枠組みに変更されている。大手商社社長はこの状況に「もはや交渉の余地もなく、出荷地の工夫もできない」と明かしている。
 元売の平準化された仕入れや相場フォーミュラ仕入れで、受発注が限られ、コスト増を余儀なくされるケースや、停止されたことによる代替ポイントが遠地になることで、コスト増により価格競争力が削がれる事態が生じている。
 いままでの通常取引も出荷ポイントが変わってしまうだけで大幅な組み直しが迫られ、どうしても応えなければならないオーダーには代替遠方ポイントから、高コスト仕入れを行い、距離延長分で運賃がかかるローリーを配車して、配送せざるを得ない。
 また、コスト増を製品価格に転嫁すれば、元売からの系列出荷にメリットを奪われかねず、やむを得ず全体の取引の中で価格的な調整を行い、出荷を継続するケースもある。
 フォーミュラ仕入れや先物調達も、引取数量のブレで大きく左右することもあり、大きなリスクに発展する。
 商社・卸業者は多彩なチャンネルから仕入れを行い、全国の出荷ポイントを駆使してきた。元売によっては、柔軟対応をする商社と提携してきたが、それも先細りな状況は否定できない。また、「特に需要繁忙期であるゴールデンウィークや、旧盆帰省、年末などに出荷対応が著しく低く感じることがある」との話を聞くようになった。

【販売業者側の変遷】G仕入一元化、止まらぬ系列回帰 商社・卸業者は特約店に

 業転玉を買う多くの業者やSSは、これまで複数の商社・卸業者の見積もりを取り、安い業者と支払方法や必要油種数量で価格交渉を行っていた。
 だが、最近は納入希望日の配送が可能かどうかも含めての交渉がほとんど。小ロットであれば商社・卸業者も辞退するケースもあり、元売が納入するケースが増えている。需要家向けの黒油(6~8㌔㍑前後)の少量配送は、より顕著に元売配送に変わっている。
 SSでも新POSの導入がほぼ完了し、元売の監視が強化されたことで、特にガソリンの購入について一元化された仕入状況が形成されつつある。価格メリットについては業転仕入れと系列仕入れとの違いがなくなり、購入意欲を削ぎ、系列回帰が顕著になってきている。
 商社・卸業者は仕入価格を狭められている。ローリー配送は、ほぼ元売マークが優先権を持つのが実態。価格・配送メリットのある取引に停滞感が出始め、多様性のある市場は喪失している。新たなメリットと価値の創造が商社・卸業者に求められているのは確かだが、これまでの商慣習を脱し切れないのも現実で、厳しい選択を迫られている。これまで業転市場という舞台で主役であった商社・卸業者は、過去の遺物となってしまう可能性は高い。