【2020 新年特集】 愛知特集 異業種、PB参入で疲弊する地場
車王国・愛知を支えるSS業界。かつて全国一の規模を誇った市場はここ数年、大きく揺らぎ、PBや系列店が入り乱れての価格競争を続けている。「4年ほど前に進出してきたコストコの激安商法がすべての原因。隣近所かつてから小競り合い程度の安売りはあったが、常滑にコストコが進出して来るまではこんなにひどくはなかった」と周囲は口を揃える。新たにコストコが県内2店舗目を計画している名古屋市東部、震源地とされる知多、西三河、さらに岐阜県のPBが昨年に進出以降、超激安を続ける同市西部地域にスポットを当てて現状を検証した。
<コストコ2号店阻止へ陳情>
【守山区】
「コストコホールセール守山倉庫店」(仮称)として米国資本の巨大企業子会社・コストコホールセールジャパン(川崎市)が新たに進出するのは、名古屋市守山区中志段味の特定土地区画整理組合70街区約3万4千平方メートル。都市計画道路に面した面積約1万500平方メートル(延床2万4千平方メートル)の倉庫店は、鉄骨3階建てで1階店舗、2・3階が駐車場。店舗全体で760台駐車の収容能力を持つ。広大な予定地ではすでに整地工事が行われており、重機やダンプカーによってすでに整地作業が行われ、今月から着工、11月竣工、12月開店を目指している。
SSは、店舗敷地内に併設。3油種(ガソリン・ハイオク・軽油)の計量機9基を備え、同時給油18台が可能。灯油販売機は2基。完成すれば東海地方では最大規模のSSとなる。計量機は3基ずつ3列に並べられる見通し。コストコが新店舗でSSを立ち上げる場合、倉庫店開店より1~2ヵ月先行して営業を始めるケースが多く、今年10月ごろにはSSをオープンさせるのではないかとみられている。
コストコの進出計画に対し愛知石商(宇佐美三郎理事長)は反対の姿勢を崩さない。その理由として、①生活用品や食料品など2千アイテムを超える商品の大量販売のため、危険物の石油製品を安売りの目玉商品のように集客品目として扱うことは許されない②会員制で登録した者、それも現金ではなく専用カードで昼間の営業時間帯しか購入できず、いつ襲ってくるかわからない自然災害に対応できない③既存の地元SSが加入する愛知石商は、県や市など行政機関と「災害時協定」を締結して被災時でもガソリンや灯油などの安定供給、住民救済のため日ごろから訓練を重ねるなど懸命に努力している④この地域住民の命を守る〝最後の砦〟の中小SSが、廉売商法のコストコによって次々と廃業や撤退に追い込まれている⑤地元中小SSをこれ以上減らすことなく、“最後の砦”を守ろうと国が官公需の受注機会の増大、住民拠点SSの整備を急速に進めているのに、超激安で売れればいいという商売は行政の石油販売業界に対する姿勢にも逆行する―などを挙げる。
同石商は特にこのところ相次いでいる自然災害への備えを重点に昨年11月、役員会でコストコ守山倉庫店のSS併設阻止を確認。愛知県石油政治連盟(太田啓一会長)と連名で、河村たかし名古屋市長に陳情することとし、昨年12月27日に、宇佐美理事長ら幹部が市役所に出向いて『コストコ給油所建設反対陳情書』を手渡した。
コストコ守山SSは全国で14番目のSS計画だが、同一県での2店舗目は愛知が初。店舗はいずれも半径20~30キロ圏の消費者を対象としていることから、計画通りSSが進出した場合、名古屋市東部を中心に尾張地域から豊田市など西三河西部の既存SSに大きな影響を与えそうだ。
<クイックピット初進出で激震>
【名古屋西部】
大都市の名古屋とはいえまだ田畑が残る住宅地の県道に、給油の車列が続いたのは昨年9月。中川区戸田西の県道に面したSSの前で、ハッピを着た10人近い従業員が旗を振って給油を呼びかけ、景品を渡したりのお祭りムード。車列は店頭に大きく掲げられたレギュラーガソリン「123円」の価格看板を見てのものだった。
老朽化した店舗を買い取りリニューアル、オープンしたのは、安売りで知られるPBクイックピット。三重県の鈴鹿や伊勢で地域最安値をアピールしていたクイックピットが、初めて愛知県内に「富田店」として進出してきたのだ。富田店は敷地が狭いため、計量機2基の規模だが極端な安売りは消費者を引き付けた。
経営は岐阜県高山市の岩田商店(PB)。オープン価格とはいえ、経営的にギリギリの138円前後で販売していた周辺既存店は同SSの激安ぶりに驚き、大事な得意客を奪われないよう一時、価格を下げるSSもあったが、オープンセールの時期を終えても全国最安値クラスの超激安を続ける同SSに価格では対抗できず、「クイックピットの価格を意識するのは、もうやめた」と近くの系列店は諦め顔だ。
同業者の溜息が聞こえる中、同店はオープン以降レギュラーで120円台を守り、この約2ヵ月余りコストコ常滑の129円を下回る127円を維持して年末商戦に突入、新年を迎えている。
【29SSが撤退】
激安競争の影響などから2019年3月末から12月末までに廃業・撤退した愛知県内のSSは29ヵ所に及ぶ。なお以下は閉鎖月別一覧(地域と系列名は本紙調べ)。
▽3月=碧南(JXTG系)、刈谷(同)、豊山(太陽系)、岡崎(PB)、名古屋市西(コスモ系)、北名古屋(同)、豊川(出光昭シ系)▽4月=西尾(JXTG系)、名古屋市瑞穂(同)、同市天白(同) ▽5月=知多(出光昭シ系)▽6月=一宮木曽川(JXTG系)、名古屋市中村(同)、一宮(同)▽7月=稲沢(同)、海部飛島(PB)、名古屋市中川(同)▽8月=半田(JXTG系)、名古屋西(PB)、海部大治(同)、犬山(JXTG系)▽9月=刈谷(PB)、知多(JXTG系)、名古屋南(出光昭シ系)、豊川(同)▽10月=豊橋(コスモ系)▽11月=清州(JXTG系)▽12月=安城(出光昭シ系)、常滑(JXTG系)
<コストコ VS バロン ・ JA VS PB VS 系列量販>
〝負の連鎖〟点から面へ
【常滑市】
「平穏だった知多半島の市場が、県内最悪のこのような事態になるとは」。15年11月、常滑市を中心にSS業界に激震が走った。コストコ中部空港倉庫店に併設されたSSが、同業者よりレギュラーガソリンで約20円も安い114円でオープン。その3ヵ月前、コストコの東隣に新規店舗を開設したPBバロンパーク(本社・半田市)は直ちに対抗。道路1本隔てた激安競争は加熱し、数日後にはコストコ87円、バロンパーク85・8円に。驚いた同石商は直ちに不当廉売で訴え、公正取引委員会が両社に「警告」を下し、いったんは収まったかに見えた。しかし、コストコは「警告に至ったことは誠に遺憾」としたものの、是正は110円程度にとどめて安売りを続行。ともに地域最安値を掲げた廉売合戦は公取委の警告から4年余りを経た現在でも続く。
先月中旬現在、コストコはレギュラー129円、ハイオク139円、軽油104円、灯油74円と県内同業者より各油種とも15~20円安い価格で販売。バロンパークもレギュラー現金130円、ハイオク140円、軽油105円、灯油74円で両社の全面対決は収まる気配を見せていない。
同石商の宇佐美理事長は、コストコ進出当時から「異業種からの参入はやむを得ないが、同じ土俵で戦ってほしい。圧倒的品数と大量販売で人気を得ているようだが、危険物の石油商品を一般仕入価格より異常に安い価格で宣伝効果的に販売し続けるのは問題だ。地域の安全安心な暮らしを懸命に守っている中小SSを脅かす商法を改めるまで、粘り強く対処していく」と強調。その決意通り不当廉売でこれまで公取委に対し、激安を仕掛けるコストコを33回、対抗して安売りするバロンパークを28回それぞれ調査申告で訴えている。
【西三河】
知多・常滑を震源とする激安競争はまたたく間に各地に波及していった。特に知多地方に近い豊田、刈谷、西尾、安城などの西三河一帯はPB、JA、系列の各SSが入り乱れ、この約4年間、常に県平均より10円前後も安い価格で争っている。
トヨタの膝元であり関連企業も多いだけに、勢いのあるこの地域で勝ち抜こうと、SS業界も新規進出やリニューアルで攻勢をかけるSSなどが絶えず、価格競争を一層深刻なものにしている。
安売りを標榜するPBが価格を下げればJAや系列のSSが対抗。これに大手販社のSSなどが参戦。この事態に再び地元PBや系列店が価格を下げて立ち向かういたちごっこが続いている。
また、コンビニに併設するSSが急速に増えているのも西三河の特徴。コンビニ店員がSSを兼務、給油量に応じたコンビニのポイント加算、ガソリン価格の値引きなど、店舗により様々な特典をアピールして集客・売上増を図り、それがまた競争を激化させている地域でもある。
地元でSSを経営する組合員は「元売再編で業転玉が一定程度整理されたり、消費増税対応などで市場は安定した状態になると期待していたし、現実にほかの地域では露骨な価格競争は減って、正常化に向かっているように思う。需要減の中での行き過ぎた競争に対する危機感があるからだろう。ところがこの西三河は、自動車産業を中心に元気な地域で、薄利でも量を売ることが生き残る道だとばかりに、食うか食われるかの廉売合戦を相変わらず続けている。うちなどはとてもついていけない」と無念さを滲ませる。
そして「激安競争の原因がコストコだけとは思わないが、常滑に進出して来るまでは、地元PBも我々と共存してきた。市場をこれほどまでにひどくした震源地は、やはりコストコSSと言わざるを得ない」と話している。