関東・東京 特集

【2020 新年特集】 関東特集2 異業種から学ぶ人手不足対策

 「人手不足倒産」が増加している。帝国データバンクの調査によると、2018年度の人手不足倒産数は前年比44・3%増の153件となり、我が国の大きな社会問題となっている。その一方でITを駆使した省力化や外国人材を活用する動きも顕著になっており、人手不足問題解消への期待が高まっている。そのような背景の中、SSと同様に人手不足問題を抱える建設・介護・清掃業界の好事例を紹介する。

「出所者を更生させるという経営者の覚悟が必要」と語る江原社長(村岡)
「出所者を更生させるという経営者の覚悟が必要」と語る江原社長(村岡)

【建設・村岡(埼玉県上尾市)】出所者を積極雇用

・じっくり向き合い信頼築く 更生させる覚悟持って
 総合建設業の村岡(埼玉県上尾市)は、刑務所出所者を積極的に雇用している。江原一美社長は「人手不足解消という側面もあるが、出所者を更生させるという経営者の覚悟がないと長続きしない。愛情を持って接し、真面目に仕事をしてくれる人材に育てば会社の利益につながる」と指摘する。
 若いころは暴走族に入りヤンチャをしたという江原社長が出所者の受け入れを始めたのは2012年。叔父である小川清常務の知人が、出所者らの就労支援を行うNPO法人「全国就労支援事業者機構」(東京)の役員だった縁で、出所者の採用に乗り出した。これまで約20人を採用。いまは従業員50人の1割を占める5人が出所者だ。トラブルを懸念して実雇用をためらう事業者も多いが、江原社長は「会ってみてあいさつができないなど根本的に問題がある人は断るが、働きたいという出所者は積極的に採用する」と語る。雇用主として不安はないのだろうか。
 「急にいなくなったり再犯に及んだり、裏切られることも多い。リスクがあるのは確かだ。例えば仕事で気に入らないことがあるようなら、じっくり話を聞いてあげる。彼らに『辞めちまえ』と言ったらすぐ辞めてしまう。でも向かい合って話せば、わかり合える部分も出てくる。重要なのはいかに裏切らせないようにするかだ」。
 出所者と一般社員が一緒に働くうえで江原社長が重要視しているのは、出所者の過去をオープンにすることと、寮での共同生活。社長を含め、従業員の大半が会社に併設した社員寮で衣食住をともにする。「陰でコソコソ言われたり、バレないかとビクビクして過ごすより、過去を明かしたほうが出所者の気持ちが楽になる」と江原社長。「孤立しないよう休日の遊びにも付き合い、家族のように面倒をみて信頼関係を築くことが大切」と力を込める。

『コレワーク』希望職種に紹介

 法務省の「矯正就労支援情報センター」(通称・コレワーク)では刑務所入所者らの職歴や資格情報を集約し、雇用を望む企業に紹介している。
 コレワークは職業安定法上、直接仲介ができないため、雇用を希望する企業から問い合わせがあった場合は条件にマッチした出所予定者がいる施設を回答。企業はその施設を管轄するハローワークに求人を出し、出所予定者との面接を含む採用活動を進める仕組みだ。
 コレワーク東日本(さいたま市)と同西日本(大阪市)があり、事業主向けに出所者の雇用支援セミナーなども開催している。問い合わせは(電話=0120ー29ー5089)へ。

【介護・YSナーシング(神奈川県横浜市)】職業訓練校と連携

・新人は“1対1”で指導 上司の「育てる力」向上が鍵
 YSGホールディングス(横浜市、長堀真己社長)の介護・老人ホーム事業を担うYSナーシングは、神奈川県内で2つの老人ホームと在宅介護事業(居宅・訪問・ダスキンライフケア)を運営している。多様な人材を活用すると同時に早期離職を食い止めようと、長堀社長が全職員と面談して意見交換するなど、働きやすい職場づくりに力を入れている。
 慢性的な人手不足が指摘される介護現場。菅野智取締役営業部長によると、「一般的に介護職員の離職は入職1年未満が4割を占め、3年以内に大半が退職する」という。以前は人材派遣・紹介会社に頼っていた同社だが、いまは自前で確保し、育てる戦略に切り変えた。
 YSGホールディングスの前身は石油販売などを手掛けた横浜石油。菅野部長もSSマンだった経歴を持つ。その時に培った営業力を生かし、職業訓練校との連携を強化。「授業の中で介護業界について話す機会を提供してもらったり、実習生を受け入れ、当社の介護施設でやりがいや面白さを感じてもらっている。こうした取り組みが奏功し、訓練校の卒業生の入社が増えている」と手応えを語る。
 介護未経験者や無資格者も積極的に採用。配膳や清掃などを担う「介護助手」として働いてもらい、やる気のある人には資格取得を推奨し、後押ししている。また、ベトナム人技能実習生の受け入れも計画しており、「外国人にとっても働きやすい環境の構築が必要になってくる」と菅野部長は指摘する。
 介護現場で働く人は圧倒的に女性が多い。同社の住宅型有料老人ホーム「ナーシングホーム横浜・長者町」(横浜市)も職員の7割が女性だ。同社取締役の笠間恵施設長は「定期的に『女性会議』を開催し、女性職員の意見を吸い上げている」と話す。これまで、健康診断に婦人科検診を加えたり、子育て中の母親が働きやすい時短勤務の導入などを実現してきた。
 経験不足による挫折や早期離職を防ぐために、先輩職員が世話役のような形で新人職員を1対1で指導する「プリセプター制度」も取り入れている。1ヵ月程度、介護技術や社会人としのマナーを学ぶ。さらに、半年間は採用担当者が新人の悩みや不安を解消するため、月1で食事をしながら面談するなど、フォローに余念がない。その結果、離職率は10%以下と成果を上げている。
 菅野部長は「離職させないよう部下を大事に育てるには、上司の管理能力を高めることが重要」と強調する。部下の成長を促すには、上司の「育てる力」の向上も急務だ。

【清掃・美創プランニング(茨城県取手市)】障害者が多数活躍

・明確な指示で働きやすく SS業務にも適応
 茨城県でビルクリーニングなど清掃業を営む美創プランニング(茨城県取手市、角田知巳社長)は、慢性的な人材不足を解消するため、選ばれる会社づくりと多様な人材が働きやすい環境づくりに努めている。特に特徴的なのが障害者の活用だ。
 同社は設立25年目、創業当初から障害者を雇用してきた。現在、パート・アルバイトを含め90人のスタッフを抱えているが、そのうち4人が障害者。
 「派遣先が多岐にわたる業種なので、障害を持つ人でも活躍できる職場は多い。自分が働きやすい時間や場所を選ぶこともできる」と角田社長は話す。「例えばレストランの夜間清掃であれば、人とのコミュニケーションは最低限でよいので、軽度の精神障害者でも十分に働くことができる。ただし、2つの指示を同時に出すとパニックになることもあるため、指示は1つずつ、そして指示系統も1本化することが重要だ」という。
 採用については、地域の就労支援施設や福祉施設から紹介を受けることが多い。「指示や教育でほかのスタッフに負荷をかけてしまうこともあるが、障害者がいることが当たり前の職場になっている」とのことだ。
 一方で、発注者に「障害者を使ってほしくない、イメージが良くない」と言われることもあるという。角田社長は、「仕事をしたいが働くことに自信が持てない人の受け皿が必要。寛容性のある社会になってほしい」と訴える。また、「人の多様性を認めることができるようになった。社会復帰していく姿を見ることができるのは嬉しい」とやりがいを感じている様子だ。
 「軽度の精神障害であれば、車の窓拭きや洗車の拭き上げ、運転もできるので灯油配達など、SSでも活躍できる可能性がある」と、障害者雇用のアドバイスもしてくれた。

『障害者の雇用者数・過去最高を更新』

 厚生労働省によると、民間企業の障害者雇用は49・6万人(2017年6月現在)と14年連続で過去最高を更新している。常用労働者に占める障害者の割合も1・97%と過去最高で、障害者雇用は着実に進展している。
 常用労働者が45・5人以上の民間企業は、2・2%以上の障害者雇用が義務付けられており、100人の企業の場合、2人以上(小数点以下は切り捨て)雇用しなければならない。100人超の事業主は法定雇用率を満たしていない場合、納付金を毎年納める必要がある。
 一方、障害者を多く雇用している場合は、報奨金や助成金を受け取ることができる。
 なお、障害者雇用の支援機関は、①ハローワーク、②地域障害者職業センター、③障害者就業・生活支援センターの3つがある。