近畿・大阪 特集

【2020 新年特集】 近畿特集 供給の要、ローリー配送の”いま”

 近畿地方では一昨年を起点に石油製品の配送が大きく変化している。運送会社からの要請により、元売各社は配送日と配送時間の画一的な調整を行い、SSや需要家が希望する日時、場所への意向に沿う納入が容易にいかない状態が続いている。その背景には車両の慢性的な不足や運転手の雇用問題、災害対応などがあり、配送を巡るトラブルに発展しかねない状況に陥っている。物流にかかる危機的状況を探る。

『働き方改革』を背景に効率的な運行が進む系列タンクローリー(写真はイメージ)
『働き方改革』を背景に効率的な運行が進む系列タンクローリー(写真はイメージ)

【動かぬ車両保有台数 新車納入遅延など目途立たず】

 2018年実績では近畿地方の白油専用タンクローリーの保有台数は468台。黒油専用は53台。その後も大きな増減はないというのが現状。白油ローリーは一応は充足しているようだが、黒油ローリーは車両台数が不足しているのは明白だ。
 今後についても、白油ローリーは大型積載型にシフトされつつあり、改善が図られているようだが、それでも新車発注後、納入まで数年の単位が必要といわれており、新車を確保していくのもままならない状態。
 黒油ローリーに至っては納入先の燃料転換で納入先自体は減少傾向にあるものの、保有台数の改善の目途が立たない状況。かろうじて白油ローリーの入替時期に黒油ローリーに代えることはあるが、白油ローリーの新陳代謝には数年を要する現状の中で、黒油ローリーへの転換は進んでいない。
 また、最近の大型の白油ローリーでは、黒油ローリーへの転換に対応できないともいわれている。

【働き方改革推進で若手離れ 運転手不足が深刻に】

 産業界全体にのしかかる大きな問題もある。物流業界の運転手不足は深刻で、これが一昨年以降の配送画一化の方向性を決定付ける大きな要因ともなった。
 物流業界では、一昨年以降、深刻な労働力不足を背景に業界全体がオペレーション改革、賃金改定を打ち出している。いわゆる『働き方改革』を社命に掲げるようになり、運転手の労働時間を減らして、いかに効率的に管理するかが大きな課題となってきた。このような取り組みの結果、有休消化や労働時間短縮により、人員体制の不足状態が続いているのは確かだ。
 それでも状況は好転しているとはいえない。昨年には、需要期を前に有休消化のため運転手が休暇を願い出たが、ほかの運転手が急病で休みとなったため、やむなく休暇を先延しした事例もある。ぎりぎりの状態が続き、突発の問題が発生しても対応しにくい状況が実際のようだ。
 また、働き方改革によって残業時間の管理が厳格になったことで、残業代が減り、所得減を避けたい若手運転手が転職する事例が増えている。結果として運転手の高齢化が一段と進んでいる。
 若年労働力不足がこのまま継続されていくと、高齢化が一気に進むことが想定され、いま以上の労務環境悪化を招くことになる。「雇用体制を確立するためにも、収入面も含め年齢面でもバランスのとれた人員配置になるような働き方改革が必要」と責任者は話す。
 結果的に良い運転手を確保するためには、運賃をはじめとするコスト上昇分を荷主に負担してもらうしかなく、現実にこの2年で運賃が大幅に上昇している。
 タンクローリーの配送コストは1㍑あたり0・2円程度の運賃値上げが数度にわたり繰り返され、元売もそれを拒否できないのが実態だ。
 商社や卸業者も同様に運賃値上げを追認しており、物流コストは相乗的に上昇している。かつて「最後は泣いてもらう」と称された、運送会社の調整弁的な役割は、もはやできないのが実態。労務問題を起点とした物流改革は、確実にSSを巻き込んでいる。

【防災行動計画徐々に浸透 供給側も改善意識を】

 社会的課題への対応も、物流を変えてきている。特に災害対応では、昨年、複数発生した自然災害を事例に予測可能なものについては防災行動計画(タイムライン防災)が進み、その対処のために既存のタンクローリーの配送を変えなくてはならない状況となっている。
 予想可能な災害の場合は運送会社間の情報共有も行い、各荷主との打ち合わせをもとに、対応配送計画を組むような形に変わってきている。荷受側の販売店も状況を理解し、早い段階から接近情報や自社のタンク繰りの状況等を想定して、災害発生起点日を避けるオーダーにするようにしている。
 また、SSや大口需要家にも、大雨や強風がひどくなる前に休業するなど、防災行動計画が浸透し始めている。さらなる浸透には官民一体となった取り組みや元売との連携、石油販売業者との訓練など、業界の枠を越えた対応が必要で、最も効率的な運送体制を構築するための様々な施策が進んでいる。
 昨年、千葉県を中心に甚大な被害を出した台風15号では、その後の復旧に向けてSS再開に時間を要したが、続く19号では台風が来る前にSSへ給油客が殺到し、在庫切れを多発するという現象がみられた。
 この事態に対し、出荷元・運送会社・SSの3社が緊急的な燃料油のオーダーに事前に備えることが重要だということが明白となり、緊急対応の長時間化が懸念されている。
 商社・卸業者の当日配送は難しく、実際に台風19号の時も完璧には対応できなかったようだ。
 また、自動配送システムでは、広範囲に起こる在庫切れに対し実力が発揮できないことも露呈した。自動配送システムを結んでいるSS責任者は「当然必要な量の納入があると思って待っていた」と話す。
 元来、緊急時の対応情報は個々が問い合わせを行い、対応をしてもらうことが多かった。この事象は消費者の災害に対する意識の変化と重なり、“最後の砦”としてのSSの存在感にも影響する。
 問題は顧客ではなく供給体制を担う側も、どのように改善を行うことができるのかを含めて、タンクローリーがいかに効率的に配送できるかについての早急な対応が求められている。

【SSの経営環境さらに厳しく 問われるコスト意識】

 物流業界の労務環境改善の流れがSSに大きな影響を与えたのは間違いない。「蔵取り」と呼ばれる自社引取形式の取引形態を除き、ほとんどの場合は、タンクローリーをオーダーして配送してもらうのがいまの石油業界の状況だ。つまりSSを営業するなら、ローリーが円滑に配送できる環境への関心を持つ必要に迫られている。
 『働き方改革』を進める物流業界では、配送コストをSSに転嫁することが当たり前になった。元売、卸、特約店はその値上げを認めざるを得ないし、SSはそれを消費者に転嫁する以外にない状態が生じている。一昨年、その課題が物流業界全体を変えたように、いまSSのコストをいかに処理するかが問われている。
 今後もSSの経営環境はさらにコスト上昇局面が続くことは間違いない。物流業界で起こった課題を受け止め、活かす努力がいまのSSに求められているのは確実だ。