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フォーカス中国 山口 猛威を振るう全農エネの廉売攻勢

  山口では昨年4月に県内の農協が統合され山口県農協となったことで、地域農協のSSはほぼすべて全農西日本エネルギーの運営に移管された。全農西日本エネはSSの大型セルフ化を進め、山口、宇部、萩など県内各地で廉売行為をしており、地元SSは適正なマージンが獲得できない状況に陥っている。こうした窮状を受けて山口石商(岡部憲治理事長)では、組合員の大勢を占める中小SSを守る観点から強く問題視。政治や行政にも働きかけながら、打開策を探っている。

江島潔参議院議員(右)に現状の改善を要望する岡部理事長(中央)
江島潔参議院議員(右)に現状の改善を要望する岡部理事長(中央)

【自主的な是正、改善求める】
〝影響要件〟重視を

 これまでも同石商は公正取引委員会にガソリン不当廉売申告を重ね、昨年9月には全農西日本エネの下関SSなどに対して、公取委から厳重注意の措置が出されたばかり。不当廉売についてはその深刻な状況を鑑みるとともに、全石連等の強い要望などもあり、昨年3月に自民党石油流通問題議員連盟が設置した廉売問題プロジェクトチーム(PT)によって中間報告書がまとめられた。公取委に対して、不当廉売の審査を行う場合は周辺SSへの“影響要件”を従来以上に重くみるように求めているが、その指摘を実践しているのが一連の同石商の取り組みといえ、影響要件を重視して不当廉売申告を行っている。また、山口県の全農西日本エネSSに対してはすでに複数回の注意が出されているにもかかわらず改善されないため、全国的な注目を集めている状況でもある。
 厳重注意などが出された中でも事態が改善しないことから、昨年12月には下関や萩の全農西日本エネSSで不当廉売行為が続いているとして、再び不当廉売の申告が行われた。下関SSでは11月15日時点で一般的な仕切価格水準が129円と推測される中、小売価格132円なので粗利は3円程度、萩SSも12月2日時点で一般的な仕切価格水準129・6円に対して、小売価格132円で粗利は2・4円程度と考えられる。
  いずれも仕切価格こそかろうじて割り込んでいないものの、人件費などの必要経費が確保できない「採算を度外視した状態」とみている。特に萩SSは9月にオープンしたSSで、販売量は他店舗と比較して限定的と推測され、「人件費などの必要経費の負担は大きく、総販売原価割れの状態ではないか」との指摘も多く出ており、申告の結果が注目されている。
 加えて、同石商は「SSは地域社会の必要不可欠なユニバーサルサービスであり、廉売行為によって減少していくことは看過できない」とのスタンスに立ち、「公平かつ公正な競争環境の実現を目指す」などとし、今後も不当廉売等に対する厳正な対処を求めていくとともに「本来、全農エネのような大手販売業者は地域社会の安定供給を支えることが重要なはず」と、自主的な是正・改善を求めていく方針だ。

【7年間で約30%のSSが閉鎖の現実】

 これまでの経緯を振り返ると、全農エネによる廉売問題が浮上したのは2012年4月、下関にJAS-PORT下関SSがオープンしたことに始まる。15年7月、同地区2店目となる清末SSのオープンで廉売問題が拡大。清末SSを対象に公取委への不当廉売申告がされたが、その結果は「措置なし」だった。さらに16年5月には下関SSが不当廉売で申告され、この際は「不当廉売につながる恐れがある」として注意処分となった。その後、下関SSには2回にわたって注意処分が出されている。
  こうした中、17年12月には全農エネの廉売問題が一時沈静化。市場適正化への期待が高まったが、19年に入りグループ分社化で全農西日本エネとなり、さらに徳佐SSがセルフ改装されたことで廉売問題が再燃した。事態を深刻に捉えた同石商は各方面に支援要請の陳情活動をしながら、東京・霞が関の公取委を直接訪問、実態説明を行うなど改善要望を活発化したが、全農西日本エネは8月に宇部SSを、9月には萩SSを改装オープンし廉売問題がさらに広がった。
 9月には下関、清末の2SSが再度、不当廉売で申告され、初めての「厳重注意」となった。この結果は、9月に開催された自民党石油流通問題議連役員会における初めての廉売問題フォローアップレビューの場でも報告された。出席議員からは「山口県の事例について説明があったが、7年間で30%のSSが閉鎖された現実は、経済産業省が事業承継税制で中小企業を残そうとしていることに逆行している。公取委の対応も含めて見直す必要がある」、「厳重注意の後どうなったかが重要。全然変わらないのであれば、極めて重要な問題だ」などの声が挙がった。同石商では岡部理事長を中心に11月の石油増税反対総決起大会等で複数の地元選出・国会議員に対して陳情するなど、改善要望をさらに活発化している。

【周防大島にも影響大】

 山口県内における全農西日本エネの廉売問題は広がり続けている。一昨年、対岸の柳井市と島を結ぶ唯一の陸路である大島大橋に貨物船が衝突し、配送ルートが途絶する事態に見舞われた周防大島町。島内にも全農西日本エネはセルフとフルを各1SS構えているが、特にセルフSSは柳井市内の一般的なセルフより安く、島内SSからは「仕切りが上がっても小売価格は下がることもあるなど、どのような値決めになっているのか理解に苦しむ」、「エリア事情を踏まえた価格を設定してほしい」といった声も上がっている。