関東・東京 特集

【2020 新年特集】 関東特集1 健全な肉体は職場から

4社の取り組み

 従業員の健康改善や働きやすい職場づくりなど「健康経営」の取り組みに力を入れる企業が増えている。社員の健康は生産性向上にもつながるからだ。経済産業省の調査では、健康経営度が高い企業ほど離職率が低い結果が出ている。健康増進を目的に社員がマラソンチームを作り大会に出場したり、講師を招いて健康セミナーを開いたり、受動喫煙対策を強化したり―。SS業界で健康経営を推進する4社を紹介する。

仕事もマラソンも“エンジョイ”がモットーだ(和田商会・新潟市内のマラソン大会で)
仕事もマラソンも“エンジョイ”がモットーだ(和田商会・新潟市内のマラソン大会で)

【新潟・和田商会】マラソン通じ強まる絆 お客様との会話の種にも

 老若男女を問わず、幅広い世代に人気がある「マラソン」。新潟市の和田商会(和田晋弥社長・JXTG系)は、有志のメンバーを集めて地元の大会に出場している。
 チームとして初めて出場したのは4年前、新潟県長岡市で開催された国営越後丘陵公園リレーマラソン。様々な大会に出場し、回数を重ねるうちにメンバーの総力も上がり、いまではどの大会でも中位の成績を収めるほどに成長した。
 マラソンサークルの発起人、総務部の高松司さんは34歳。学生時代から走ることに長けていた訳ではなく、社会人2年目を迎えたころ、声をかけられて「なんとなく」始めたのがきっかけ。思いのほかマラソンを趣味にしていた社員は多く、そこから徐々に仲間が増えた。目的は健康増進、ダイエットなど多岐にわたり、中には走り終わった後の“1杯”を楽しみに走る強者も。
 最年長メンバーの1人、業務部の和田洋一次長も「個人でももちろん楽しめるが、チームだと“仲間のために”という使命感を持つことができる。1人で走っていると苦しさのあまり楽をして歩きたくなってしまうが、周回ポイントで仲間が応援してくれるので、つい熱が入る」と思いを語る。
 チームとしてだけではなく、個々で別の大会に出場し、さらなる高みを目指すメンバーも多い。その様子をSNSに投稿すると「負けていられない、より良いタイムを出してやろう」と、メンバー同士でヒートアップすることもあるのだとか。
 走ることの魅力を問うと「マラソンは人気があるし、運動靴さえあればだれでも気軽に始めることができる。ユニホームはないけれど、皆でわいわい走ることがなにより楽しい」。仲間との楽しげな様子は、同社のSNSにも掲載されている。それを見たSSのお客さんからも「面白そうだね」と会話が生まれるなど、反響も上々だ。

【長野・朝倉石油】『健康経営』宣言企業に セミナー受講し意識向上

 従業員の健康管理を重視する「健康経営」を取り入れる動きが広がっている。全国健康保険協会(協会けんぽ)長野支部が進める『健康づくりチャレンジ宣言』の宣言企業は、昨年10月末時点で616社に上る。県内の商工会議所やアクサ生命も健康経営を普及させようと協力。健康経営や従業員の健康づくりに取り組む内容を決めチャレンジ宣言をすると、達成に向けアクサ生命がサポートしてくれる。
 朝倉石油(本社・長野県茅野市、出光昭シ系)の朝倉祐一社長は昨夏、茅野商工会議所でアクサ生命の担当者から健康宣言の提案を受け、「ぜひやりたい」と即答。「経営の効率化や生産性アップという話はよく聞くが、『健康経営』という視点は新鮮で、いまやるべきと思った」と振り返る。
 同社は従業員を対象に、運動や飲酒などの健康習慣に関するWebアンケートと健康セミナーを行うとして、チャレンジ宣言。従業員約20人がインターネットやスマホから回答したアンケート結果を踏まえ、アクサ生命の講師に傾向と対策を解説してもらうセミナーを社内で開いた。
 アンケート結果は、職場全体の現状をパーセントで示すなどし、個々の従業員がどう答えたかはわからない仕組み。朝倉律子総務部長は「従業員が健康に関心を持っていないことが良くわかった」と苦笑する。講師からは運動不足などを指摘され、「ストレッチや軽度の運動をしたほうがいい」と助言されたという。 
 企業にとって社員は財産。「専門的なアドバイスをもらい、健康を意識するきっかけになった」と話す朝倉社長は、今後も従業員の健康に目配りを続ける考えだ。

【埼玉・富田商店】「完全分煙」へSS改装 求められる受動喫煙対策

 受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が今年4月、全面施行される。飲食店など多くの人が利用する施設は原則「全面禁煙」か、喫煙室を別に設ける「完全分煙」を求められる。
 SSのサービスルームにも同法が適用される。違反して改善の指導や命令に従わない施設管理者は最大50万円、喫煙者には最大30万円の過料が科される。
 富田商店(本社・川口市、富田浩正社長・JXTG系)南前川SSは昨年4月、サービスルームを全面改装し、客用と従業員の喫煙室をそれぞれ設置した。客用は国の助成金を活用している。富田雄三取締役石油事業部長は、「改装前も喫煙スペースを設けていたが簡易な構造だったため、吸わない客や従業員までたばこの煙にさらされていた。不快感からサービスルームを出て行くお客さんもいた」と振り返る。
 受動喫煙は目やのどの痛み、発疹などの症状が出て健康被害をもたらす恐れがあるが、富田部長は「問題はそれだけではない」と指摘する。「部屋の中でたばこを吸うとヤニが至る所に付着して黄ばみ、見た目が悪くなるし、掃除も大変。ヤニはほかの汚れも付けるので、事務所のパソコンがほこりまみれになり、故障の原因にもなる」。
 洗車客の多い同SS。完全分煙化してからは、喫煙者も非喫煙者も快適に過ごせるようになり、リピーターも増えたという。富田部長自身は非喫煙者。「同僚の喫煙率は高いが、“吸うな”とは言えない。従業員専用の喫煙室で吸ってもらえれば、非喫煙者の健康を守れる」と話す。
 改正法の全面施行に合わせ、企業が従業員を募集する際にも、「屋内禁煙」「屋内原則禁煙(喫煙室あり)」など、講じている受動喫煙対策の明示が義務付けられる。事前に求職者に知らせることで、望まない受動喫煙を防ぐのが狙いだ。
 企業がどんな対策をしているのか―。求職者が職場を選ぶ基準の1つとなる。

【群馬・中村商会】働きやすい環境重視 全面禁煙、休日融通など

 群馬県藤岡市の中村商会(中村敏社長・出光昭シ系)では、店内を全面禁煙にして、休日や勤務時間を融通しあい、社員が働きやすい環境づくりをしている。
 「全面禁煙にしたのは10年ほど前」と話すのは社長の長男で群馬石協青年部のメンバーでもある中村賢一氏。結婚を期に自身の禁煙を決意。社会的風潮も後押しし、洗車・タイヤ交換待ちでサービスルームを利用する女性や子どものことも考え、店内を全面禁煙とした。なお、たばこを吸いたいと言うお客様には近隣の商業施設の喫煙所を案内している。
 「社員は父と叔父、弟と自分の4人。親族経営のため、長く健康に働くためにも禁煙にして良かった。体の動きも軽くなった」と、中村氏は笑みを浮かべる。サービスルームからたばこの臭いが消え、キレイになったことで女性客からも好評のようだ。店内にある熱帯魚の水槽がさらに清潔感を演出している。静岡で水草メインの熱帯魚ショップを経営する社長の三男が供給しているとのこと。
 同社が提供するサービスは、洗車、タイヤ・オイル・バッテリー交換、灯油・重油の配達など。基本的に休みは週1日で、営業時間は平日午前7時~午後8時、日曜・祝日は午前8時~午後7時。「休日は決して多くないが、きちんと家族サービスができるように、交代で土日を休めるようにしている。すべての実務を皆ができるため、だれが休んでも問題ない」と中村氏。「社内ルールは4人で決めている。定期的に食事をするなどしてコミュニケーションを深めている」と話し、「親族経営だからこそ普段のコミュニケーションが大事だ」と強調する。